水野南北『南北相法』
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江戸時代中期に観相学の大家、水野南北によって著された『南北相法』は、単なる人相・手相占いの書ではない。人の顔や手、姿形から運命を読み解くだけでなく、その運命を自らの手で好転させるための具体的な方法論、すなわち「食の節制」の重要性を説いた、画期的な自己啓発の書である。現代語訳版として出版されている本書は、時代を超えて多くの人々に影響を与え続ける南北の思想の核心に、平易な言葉で触れることを可能にしてくれる。特に、その教えの根幹をなす『相法極意修身録』を元にした書籍は、現代の我々にとっても示唆に富む内容となっている。
観相学の集大成、されど結論は「食」にあり
水野南北は、若い頃は酒と喧嘩に明け暮れる放蕩者であった。ある時、人相見に「死相が出ている」と宣告され、それを免れるために禅寺に出家を請う。そこで住職から「一年間、麦と大豆だけの食事を続けられたら弟子にしてやる」という課題を与えられ、これを成し遂げたところ、死相が消え、運命が大きく好転したという自身の体験が、南北の思想の原点となっている。
彼は、髪結い、風呂屋の三助、火葬場の隠亡(おんぼう)といった職に就き、あらゆる階層の人々の素顔、裸体、そして手の相を徹底的に観察し、その生活と運命を研究した。本書には、そうした膨大な観察に基づく詳細な人相・手相の鑑定法が記されている。生命線や運命線といった手相の基本的な見方から、顔の各部位が示す運勢まで、観相学のバイブルとして、現代の占術の基礎ともなっている知識が網羅されているのだ。
しかし、南北の思想が画期的なのは、そこで終わらない点にある。長年の実践と研究の末に彼がたどり着いた結論こそ、「人の運命は、生まれ持った相よりも日々の食事によって決まる」という驚くべき洞察であった。
生まれ持った手相さえも変える自己規律
本書の中心的な思想は明快である。「食を慎む者は、たとえ凶相(悪い人相や手相)であっても運を開き、富と長寿を得る。逆に、いかに吉相の持ち主であっても、暴飲暴食を続ければ運を逃し、晩年は凶となる」。南北は、食事の量がその人の器を決め、節度ある食生活を送ることで、心身が整い、ひいては運命そのものが好転すると断言する。
これはつまり、手相に現れた「変えられない運命」とされてきた線さえも、後天的な努力、とりわけ食の修養によって乗り越えられるという宣言に他ならない。手相占いで悪い結果を告げられて落ち込むのではなく、それを乗り越えるための具体的な実践方法が示されているのである。
現代語訳版は、古風で難解な原文を、現代の読者にも理解しやすい言葉で丁寧に解き明かしてくれる。単に「少食が良い」と説くだけでなく、なぜ食の節制が運命に影響を与えるのか、その哲学的な背景まで踏み込んで解説されているのが特徴だ。
例えば、「人は天から一生涯に食べる量が定まっている。大食はその禄を前倒しで食い潰す行為である」という考え方は、現代の飽食の時代に生きる我々にとって、ハッとさせられるものがある。また、「食欲を制することができれば、他のすべての欲望もコントロールできる」という教えは、自己規律やセルフコントロールの重要性が叫ばれる現代においても、極めて実践的な指針となるだろう。
このような人におすすめ
- 人生に行き詰まりを感じ、何かを変えるきっかけを探している人
- 人相や手相に興味があるが、占いの結果に一喜一憂したくない人
- 健康や食生活に関心があり、その精神的な意味を知りたい人
- 自己啓発や自己規律の術を学びたい人
『南北相法』の現代語訳は、単なる古典の紹介にとどまらない。水野南北という稀代の観相家が、その人生をかけて掴み取った運命好転の秘術を、現代に生きる我々に力強く語りかけてくれる一冊である。食という最も身近な営みを見直すことで、生まれ持った相さえも乗り越え、運命を自らの手で創造することができる。その力強いメッセージは、きっとあなたの心に深く響くはずだ。
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