『手の仕組みと脳の発達』久保田競

久保田競『手の仕組みと脳の発達』

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家庭は電化され、社会は自動化された。この見違えるほど豊かになった生活と引き換えに、私たちは何を失ったのか。脳科学の権威・久保田競氏は、その代償が「人間そのものの能力の衰退」であると、本書『手の仕組みと脳の発達』で鋭く警鐘を鳴らす。転んでも手が出せずに顔を怪我する子ども、急増する成人病や無気力な若者——。その根源的な原因は、「手と足を使わなくなったから、あたまも使わなくなった」という、シンプルかつ衝撃的な事実にある。


 

400万年の歴史が示す、「手」と「脳」の共進化

 

本書の壮大な物語は、約400万年前に猿人が二本の足で立ち上がった、人類誕生の瞬間にまで遡る。著者は、この「直立二足歩行」こそが人類史における決定的な出来事であったと説く。なぜなら、それによって前足が歩行から解放され、ものを創造するための「手」となったからだ。

それまでの動物の前足が、体を支え移動させるためのものだったのに対し、人類の「手」は、道具を創り、それを使うための道具となった。過去400万年の間、人類は「あたまで考えて」、その手で道具を創り出すという営みを繰り返してきた。この「手」と「脳」の絶え間ないフィードバックこそが、人間を人間たらしめ、文明を発展させてきた原動力なのである。


 

アイドルハンド、アイドルブレイン – 使われない手と脳

 

この人類400万年の歴史を背景に、著者は現代社会の危機を浮き彫りにする。かつて農業や工業でせっせと動かされていた私たちの手は、今やその役割を機械に奪われ、休んでしまっている。手を使わないことは、すなわち脳を使わないこと。その結果として、身体能力の低下、成人病の蔓延、そして無気力といった、心身にわたる深刻な問題が噴出しているのだ。

石川啄木が「ぢつと手を見る」と詠んだように、手は私たちの労働と生活、そして人生そのものを象徴してきた。本書は、その手の仕組みと、脳との密接な関係を科学的に解き明かすことで、現代人が直面する問題の本質を白日の下に晒す。


 

すべての現代人が読むべき、人間性の再発見の書

 

『手の仕組みと脳の発達』は、単なる脳科学の解説書ではない。それは、私たちが便利さと引き換えに失いつつある、最も根源的な人間性を再発見するための、警世の書であり、希望の書である。

なぜ子どもたちは不器用になったのか。なぜ私たちは気力を失いがちなのか。その答えは、400万年の進化の歴史が刻まれた、あなたの「手」の中にある。本書を読めば、手を使うという日常的な行為が、いかに私たちの脳を育て、人間性を育んできたかを痛感させられるだろう。これは、すべての親、教育者、そして豊かさの中で何か大切なものを見失っていると感じる、すべての現代人にとって必読の一冊だ。

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