『あなたを実験する手相術』浅野八郎

浅野八郎『あなたを実験する手相術』

1963年、ケネディ大統領は暗殺され、三池炭鉱は爆発し、力道山は刺殺された。幸福の絶頂にいたはずの人々を突然襲う、残酷なまでの「偶然」。私たちの人生は、科学で予測可能な60パーセントの必然よりも、時に、説明不能な40パーセントの偶然によって、より強く支配されているのではないか——。この根源的な問いから、心理学者・浅野八郎氏による『あなたを実験する手相術』は、読者を深遠なる運命の探求へと誘う。

占いは「人間の悲しい努力の結晶」である

本書は、手相の線の引き方を教える単なる技術書ではない。その根底にあるのは、人間の歴史と共にあり続けた「占い」という営みへの、真摯で深い眼差しだ。著者は、占いを、自分の将来の苦しみを少しでも前もって知りたいという「人間の悲しい努力の結晶」と位置づける。星占い、人相、手相、易経——。古代ギリシャの哲学者から為政者に至るまで、人々が必死に知ろうとしてきたのは、この抗いがたい「偶然」の法則性であった。

本書は、この二千年以上の歴史を持つ東洋と西洋の占いを、単なる迷信として切り捨てることなく、その体系を丁寧に分析する。そして、そこに現代心理学によって見出された科学的な人間診断法を加え、人間の運命の謎を解明しようと試みるのだ。

あなた自身を「実験」の対象とする、知的な試み

本書のタイトル『あなたを実験する手相術』は、このユニークなアプローチを象徴している。これは、受動的に運命を告げられるための本ではない。読者自身が被験者となり、自らの手のひらをテキストとして、「古代の知恵と現代科学を融合させた時、果たして運命の謎は解けるのか？」という壮大な実験に参加することを促す、知的な招待状なのだ。

著者は、私たちが非科学的だと思っている事柄の中にこそ、運命の謎を解くカギが隠されていると信じる。手のひらに刻まれた線や形は、その人の身体的、心理的な変化を反映したものであり、統計的なデータと心理学的な洞察をもって分析すれば、それは極めて有効な「人間学」となりうる。

運命と闘う勇気と自信を

下等な動物と人間の違いは、運命に対決する姿勢にあると著者は言う。人間は、自らの宿命を予知しようと努力し、それに対して自分を防衛する能力を持っている。

この本は、そのための武器と思考法を与えてくれる。ケネディの悲劇や日常に潜む不条理を前に、ただ無力に打ちひしがれるのではない。自らの手のひらを通して自分を深く理解し、来るべき「偶然」に備え、運命と闘う勇気と自信を持つこと。それこそが、本書が読者にもたらす最大の恩恵であろう。

運命や宿命という問題を深刻に考えさせられた経験のある、すべての思索的な人へ。これは、あなたの手のひらから始まる、壮大な人間探求の実験である。