宮城音弥『手相の科学』
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「手相は当たるのか?」この古くからの問いに、占いの立場からではなく、科学的かつ心理学的な視点から冷静に切り込んだ一冊が、心理学者・宮城音弥氏による『手相の科学』である。本書は、手相のやり方を教える占いマニュアルではない。むしろ、「なぜ人は手相を信じるのか」「手の特徴と性格には本当に関連があるのか」という疑問を、客観的な分析と懐疑的な精神で解き明かしていく、知的好奇心に満ちた科学エッセイだ。
占いの世界への「心理学」からの挑戦
著者の宮城音弥氏(1908-2005)は、フロイトの精神分析を日本に紹介したことでも知られる、著名な心理学者である。そんな科学の専門家が「手相」という一見非科学的なテーマを取り上げたこと自体が、本書の最大の魅力と言えるだろう。
宮城氏は、頭ごなしに手相を「迷信だ」と切り捨てることはしない。まず、手相術がどのように成り立ち、どのような論理で運命を読み解こうとするのかを丁寧に紹介する。その上で、心理学者の鋭いメスを入れ、なぜ人々が手相占いに惹きつけられ、「当たっている」と感じてしまうのか、その心のメカニズムを鮮やかに解剖していく。
例えば、誰にでも当てはまるような曖昧な記述を、自分だけに向けられた的確な指摘だと感じてしまう「バーナム効果」や、自分の信念を裏付ける情報ばかりを集めてしまう「確証バイアス」といった心理学の概念を用いることで、占いが持つ説得力の正体を明らかにする。
「手の特徴」と「性格」の相関を探る
本書の興味深い点は、単なる占いの批判に留まらないことだ。宮城氏は、「手の形状や指の長さ、皮膚の状態といった物理的な特徴が、個人の性格や気質と何らかの関連性を持つ可能性」については、科学的な探求の対象として真摯に向き合う。
例えば、内分泌学的な観点からホルモンバランスが指の長さに影響を与える可能性や、職業や生活習慣が手の形や硬さを変える事実などを指摘。伝統的な手相術が、長年の経験則から、こうした科学的にも説明がつきうる身体的特徴と性格の相関関係を、直感的に捉えてきた可能性も示唆している。
しかし、手のひらの「線」が未来の出来事を予知することについては、明確に科学的根拠がないと一線を画す。あくまで本書が探求するのは、占いではなく、人間そのものである。
信じる前に、知っておきたいこと
『手相の科学』は、手相占いを信じている人にとっては、少し耳の痛い内容かもしれない。しかし、本書を読むことは、物事を批判的に捉え、情報の真偽を見抜くための科学的思考を養う絶好の機会となるだろう。
- 手相占いが好きな人は、なぜ自分がそれを信じるのかを客観的に見つめ直すことで、より健全な形で占いと付き合えるようになるだろう。
- 手相に懐疑的な人は、その直感的な疑いが論理的に裏付けられ、知的な満足感を得られるはずだ。
占いの神秘的なヴェールを一枚一枚剥がしていくような、スリリングな知的探求の書。なぜ人は占いに惹かれるのか、その根源的な問いに対する、心理学者からの明快な回答がここにある。
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