『五味手相教室』五味康祐

五味康祐『五味手相教室』

手相術は子供だましの占いではない——。文豪・五味康祐が、その怜悧な知性と長年の観相体験をもって我々に手ほどきをする『五味手相教室』は、この力強い宣言から始まる。本書は、単なる吉凶判断の手引書ではない。アリストテレスやプラトン、カントといった哲学者たちが認めた歴史的叡智として、また、医師や科学者が研究対象としてきた「人間学」として、手相術の真価を問い直す、本格的な一冊である。

占星術から医学まで – 手相術の壮大な歴史

本書がまず示すのは、手相術が持つ三千年以上の圧倒的な歴史と、その知的な系譜である。太陽丘や金星丘といった言葉の起源が古代カルデア人の占星術にあること。旧約聖書に「神はすべての人の手に表示を置き給えり」と記され、神学者たちにも支持されてきたこと。そして近代において、医師たちが癌の早期発見や死刑囚の運命を手相から読み解こうと試みてきたこと——。

著者は、これらの歴史的事実を丹念に紐解くことで、手相術をあやしげな迷信の座から引き上げ、人間を深く理解するための由緒正しい学問として再定義する。手のひらに指紋や掌線を持つのが、知能の発達した人間と猿だけであるという事実は、この学問が持つ生物学的な根拠を雄弁に物語っている。

未来を予知し、難を未然に防ぐ

『五味手相教室』の真価は、その歴史的背景の解説に留まらない。本書の目的は極めて実践的だ。結婚や恋愛、職業の適性、金運、そして何よりも健康状態を手相から読み解き、読者が自らの未来を知るための具体的な方法を、分かりやすく提示することにある。

• 結婚相手と時期はわかるのか？ → わかる。神が各人に印したサインを読み解けば、自分にふさわしい相手と、その実現の時期を知ることができる。
• 病気や不慮の事故は避けられるか？ → 予知し、未然に防ぐことができる。生命線に現れる兆候から体質を把握し、生活に注意を払うことで、難を避けることが可能になる。

これは、運命に翻弄されるのではなく、それを先読みして主体的に人生を切り拓いていくための、攻めの技術なのだ。

文豪が案内する、自己発見の旅

五味康祐という稀代の知識人が、洋の東西を問わず先人たちの研究成果と、自身の長年の観相体験を融合させて書き上げた本書には、揺るぎない説得力がある。

自分の未来を知りたい、病や災難から身を守りたい、そして人生の伴侶を見つけたい。そんな切実な願いを持つすべての人にとって、『五味手相教室』は、手のひらに刻まれた「神のサイン」を正確に読み解くための、最も信頼できる教科書となるだろう。これは単なる占いではない。自己を発見し、より良い人生を送るための、知的な自己防衛術なのである。